東京地方裁判所 平成4年(ワ)14401号 判決 1994年1月12日
原告
株式会社ニコマートハウジング
右代表者代表取締役
今野康裕
外一名
右両名訴訟代理人弁護士
緒方節郎
同
玉重良知
被告
榎本邦俊
外二名
右三名訴訟代理人弁護士
米津稜威雄
同
長嶋憲一
同
佐貫葉子
同
野口英彦
主文
1 被告榎本邦俊は、原告株式会社ニコマートハウジングに対し、別紙物件目録記載の各建物を明け渡し、かつ、平成四年四月八日から同目録一記載の建物の明渡済みに至るまで一か月当たり三五万五〇〇〇円の割合による金員を、右同日から同目録二記載の建物の明渡済みに至るまで一か月当たり六四万二〇〇〇円の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告株式会社ニコマートに対し、連帯して、一六八〇万円及びこれに対する平成四年一〇月三〇日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。
3 原告株式会社ニコマートの被告らに対するその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、原告株式会社ニコマートに生じた費用の二分の一を同原告の負担とし、同原告に生じたその余の費用を被告らの負担とし、原告株式会社ニコマートハウジングに生じた費用を被告榎本邦俊の負担とし、被告らに生じた費用を被告らの各自の負担とする。
5 この判決は、原告らの勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告ら
1 被告榎本邦俊(以下「被告榎本」という。)は、原告株式会社ニコマートハウジング(以下「原告ハウジング」という。)に対し、別紙物件目録記載の各建物を明け渡し、かつ、平成四年四月八日から別紙物件目録一記載の建物(以下「目黒店」という。)の明渡済みに至るまで一か月当たり三五万五〇〇〇円の割合による金員を、右同日から同目録二記載の建物(以下「新高円寺店」という。)の明渡済みに至るまで一か月当たり六四万二〇〇〇円の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告株式会社ニコマート(以下「原告ニコマート」という。)に対し、連帯して六七二〇万円及びこれに対する平成四年四月七日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決及び仮執行の宣言を求める。
二 被告ら
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決を求める。
第二 当事者の主張
一 原告らの請求の原因
1 (本件フランチャイズ契約等の締結)
原告ニコマートは、昭和六二年一〇月一日、被告榎本との間において、原告ニコマートをフランチャイザー、被告榎本をフランチャイジーとして、原告ニコマートの開発にかかるコンビニエンスストア事業のための店舗設計、商品調達、店舗運営等の経営全般にわたるノウハウを総合し体系化したニコマート・システムによる目黒店におけるコンビニエンスストアの経営を目的とするニコマート・フランチャイズ加盟店契約を締結し、また、被告榎本に対して、ニコマート・システムによるコンビニエンスストアとして使用する目的で、原告ニコマートが訴外関根かほるから賃借していたその所有の目黒店を、賃料一か月当たり二八万五〇〇〇円の定めで転貸して引き渡した。
さらに、原告ニコマートは、同年一一月一日、被告榎本との間において、原告ニコマートをフランチャイザー、被告榎本をフランチャイジーとして、ニコマート・システムによる新高円寺店におけるコンビニエンスストアの経営を目的とするニコマート・フランチャイズ加盟店契約を締結し、また、被告榎本に対して、ニコマート・システムによるコンビニエンスストアとして使用する目的で、原告ニコマートが訴外小池淳から賃借していたその所有の新高円寺店を、賃料一か月当たり六〇万円の定めで転貸して引き渡した(右各ニコマート・フランチャイズ加盟店契約を以下「本件フランチャイズ契約」といい、右各転貸借契約を以下「本件転貸借契約」という。)。
そして、被告榎本秀之及び同山崎雅弘は、本件フランチャイズ契約の各締結日に、原告ニコマートとの間において、被告榎本が本件フランチャイズ契約に基づいて原告ニコマートに対して負担する債務につき、被告榎本と連帯してこれを保証する旨を約した。
2 (契約解除権等の定め)
原告ニコマート及び被告榎本は、本件フランチャイズ契約において、その契約解除権等について、次のとおり定めた。
(一) 被告榎本が原告ニコマートの許諾により付与された権利及びニコマート・システムに関する手引書・資料の全部又は一部を他に譲渡、担保差入れなどの処分をし、あるいは正当な理由なく使用させ又は占有させたとき、原告ニコマートの企業機密及び経営機密資料を第三者に漏らし、又は競業他者の経営に関与し、若しくはこれらの者と業務提携あるいはフランチャイズ関係を結んだときは、原告ニコマートは、通知・催告をしないで、直ちに本件フランチャイズ契約を解除することができる。
(二) 被告榎本は、目黒店及び新高円寺店の営業店舗以外の場所で、ニコマート・システムによる事業ないし営業活動と同一又は類似の営業活動その他の行為をしてはならず、被告榎本がこれに関して重大な違背をした場合において、原告ニコマートから七日間以上の期間において書面による催告を受けたにもかかわらず、その期間経過後においてもなおその違反を改めないときは、原告ニコマートは、本件フランチャイズ契約を解除することができる。
(三) 本件フランチャイズ契約が右(一)又は(二)の事由によって解除された場合には、被告榎本は、原告ニコマートに対して、その被った損害に対する賠償として、一営業店舗一か月当たり二八万円のロイヤリティの一二〇か月分相当額の金員を支払う。
また、原告ニコマート及び被告榎本は、本件転貸借契約において、被告榎本が本件フランチャイズ契約を解除されたときは、原告ニコマートは、催告をしないで、本件転貸借契約を解除することができるものと定めた。
3 (被告榎本の義務違背)
(一) 被告榎本が取締役を務める訴外明治乳製品株式会社(以下「訴外明治乳製品」という。)は、昭和六三年二月、訴外株式会社新鮮組本部(以下「訴外新鮮組」という。)とフランチャイズ契約を締結して、東京都品川区西五反田において新鮮組TOC店を経営し、昭和六三年九月、訴外株式会社ハーモニーとフランチャイズ契約を締結して、東京都大田区北馬込でファミリアンドフレンズ北馬込店の経営を開始し、平成二年頃からは、訴外新鮮組とフランチャイズ契約を締結して、同店舗を新鮮組北馬込店として経営し、平成三年二月、訴外株式会社サンショップヤマザキ(以下「訴外サンショップヤマザキ」という。)とフランチャイズ契約を締結して、東京都中央区日本橋堀留町でサンエブリー日本橋堀留町店を経営し、同年六月、訴外新鮮組とフランチャイズ契約を締結して、東京都港区浜松町で新鮮組浜松町店を経営している。
(二) これらの各店舗は、いずれもコンビニエンスストアであって、原告ニコマートが営むコンビニエンスストア事業と商品構成や経営形態等が類似し、競合関係に立つものである。
そして、訴外明治乳製品は、被告榎本の父が代表取締役、被告榎本を含む三人の兄弟がいずれも取締役を務める同族会社であって、被告榎本は、同社の事業のうち少なくともコンビニエンスストアの経営に関しては、老齢の代表取締役に代って業務執行を担当する立場にあったものである。
(三) したがって、被告榎本は、競業他者である訴外明治乳製品の経営に関与し、ニコマート・システムに関する手引書、資料等の原告ニコマートの企業機密等を訴外明治乳製品に漏らしたり使用させたりし、又は訴外明治乳製品と共同して、目黒店及び新高円寺店の営業店舗以外の場所で、ニコマート・システムによる事業ないし営業活動と同一又は類似の営業活動を行ったものである。
4 (本件フランチャイズ契約の解除等)
(一) 原告ニコマートは、被告榎本に対して、平成四年三月一一日に到達した書面をもって同月二一日までに前記のサンエブリー日本橋堀留町店の経営を中止するよう催告したが、被告榎本がこれに応じなかったので、同年四月六日に到達した書面をもって本件フランチャイズ契約を解除する旨の意思表示をし、さらに、同月七日に到達した書面をもって本件転貸借契約を解除する旨の意思表示をした。
当時における目黒店の一か月当たりの貸料相当額は、三五万五〇〇〇円であり、新高円寺店におけるそれは、六四万二〇〇〇円である。
(二) 原告ニコマートは、平成四年七月二一日、原告ハウジングに対して、目黒店及び新高円寺店の賃借権を、賃貸人である訴外関根かほる及び同小池淳の同意を得て、両店の転貸借契約に関して生じた一切の権利義務とともに譲り渡し、被告榎本に対して、同月二六日に到達した書面をもって、その旨を通知した。
5 (結論)
よって、原告ハウジングは、被告榎本に対して、賃借権に基づき又は各所有者に代位してその所有権に基づき、目黒店及び新高円寺店の明渡しを求めるとともに、平成四年四月八日から目黒店の明渡済みに至るまで一か月当たり三五万五〇〇〇円の割合による賃料相当額の損害金の支払いを、右同日から新高円寺店の明渡済みに至るまで一か月当たり六四万二〇〇〇円の割合による賃料相当額の損害金の支払いを求め、また、原告ニコマートは、被告らに対して、損害賠償の予定にかかる損害賠償金六七二〇万円及びこれに対する本件フランチャイズ契約が解除された日の翌日である平成四年四月七日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める。
二 請求原因事実に対する被告らの認否
1 請求原因1(本件フランチャイズ契約等の締結)の事実は、認める。
2 同2(契約解除権等の定め)の事実は、認める。
3 同3(被告榎本の義務違背)の(一)の事実は、認める。
同3の(二)の事実中、訴外明治乳製品が訴外新鮮組とのフランチャイズ契約に基づいて経営している各店舗が商品構成や経営形態等において原告ニコマートが営むコンビニエンスストア事業に類似したコンビニエンスストアであること、被告榎本が訴外明治乳製品の事業のうち少なくともコンビニエンスストアの経営に関しては代表取締役に代わって業務執行を担当する立場にあったことの各事実は否認し、その余の事実は認める。訴外明治乳製品が訴外新鮮組とのフランチャイズ契約に基づいて経営している各店舗は、弁当、惣菜等の販売を行っているに過ぎない。
同3の(三)の事実は、否認する。本件フランチャイズ契約にいう競業他者とは、コンビニエンスストアのフランチャイズ・システムにおいてフランチャイザー業務を行う者を意味するものであって、訴外サンショップヤマザキ等のフランチャイジーに過ぎない訴外明治乳製品は、これに含まれない。
4 同4(本件フランチャイズ契約の解除等)の(一)の事実は、認める。
同4の(二)の事実中、原告ニコマートが被告榎本に対して主張のような通知をしたことは認めるが、その余の事実は知らない。
三 被告らの抗弁
1 被告榎本が競業他者の経営に関与し又はこれらの者と業務提携若しくはフランチャイズ関係を結んだときは原告ニコマートは直ちに本件フランチャイズ契約を解除することができるものとする本件フランチャイズ契約の解除権に関する前記の約定は、被告榎本の事業活動を過剰に制限するものであって、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)一九条、二条九項、不公正な取引方法(昭和五七年公正取引委員会告示第一五号。以下「不公正な取引方法」という。)一一号にいう排他条件付取引及び同一三号にいう拘束条件付取引に該当し、公序良俗に反するものとして、無効である。
2 本件フランチャイズ契約における損害賠償の予定に関する前記の約定は、原告ニコマートが契約上の優越的な地位を濫用して被告らに合意させたものである上、実質的な損害がない場合にも過大な損害賠償義務を課すものであるから、公序良俗に反する約定であって、その全部又は少なくとも一部が無効である。
四 抗弁事実に対する原告らの認否
各抗弁事実を否認し、主張を争う。
第三 証拠関係<省略>
理由
一請求原因1(本件フランチャイズ契約等の締結)、同2(契約解除権等の定め)及び同3(被告榎本の義務違背)の(一)の各事実並びに同3の(二)の事実中訴外明治乳製品が訴外株式会社ハーモニーとの間のフランチャイズ契約に基づいて東京都大田区北馬込で経営していたファミリアンドフレンズ北馬込店及び訴外サンショップヤマザキとの間のフランチャイズ契約に基づいて東京都中央区日本橋堀留町で経営していたサンエブリー日本橋堀留町店がいずれも商品構成や経営形態等において原告ニコマートが営むコンビニエンスストア事業に類似したコンビニエンスストアであること並びに訴外明治乳製品は被告榎本の父が代表取締役、被告榎本を含む三人の兄弟がいずれも取締役を務める同族会社であることの各事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二そして、<書証番号略>、証人佐草右造の証言並びに弁論の全趣旨によれば、原告ニコマートの営むコンビニエンスストアのフランチャイズ事業は、フランチャイザーである原告ニコマートが、フランチャイズ加盟店契約を締結した多数のフランチャイジーに対して、統一的な商標やサービスマークを使用し同一のイメージの下にそれぞれ特定の店舗においてコンビニエンスストアを営業する権利を与えるとともに、商品の陳列、仕入れ、管理、価格の設定等の販売方法、売れ筋情報等の店舗経営に関わる資料又は情報の提供、商品仕入代金、経費等の立替業務、財務処理の代行業務等の継続的な経営の指導、技術援助及びサービスを行い、それに対する対価としてロイヤリティの支払いを受けるものであって、その取扱商品は、食料品を中心としたファーストフード、ディリーフード、加工食品、雑貨等の横断的かつ業際的な生活必需品各分野の約四〇〇〇点にも及び、原告ニコマートは、消費性向の調査等に基づいて、これらの商品の仕入れ、陳列、品揃え等の販売管理及び在庫管理、帳簿処理、会計処理等をひとつのシステム(ニコマート・システム)として継続的にフランチャイジーに提供するものであり、原告ニコマートのこのような統一的な統制、指導及び援助の下に、フランチャイジーは、経営知識又は経験が比較的乏しくても、その事業能力を強化することができることを目的としたものであること、原告ニコマートは、本件係争当時において、フランチャイズ店約二二〇店、直営店及び委託店合計二四〇店を擁して、東京都内を中心としてコンビニエンスストアのフランチャイズ事業を展開していたものであることを認めることができる。
他方、前記の争いがない事実に<書証番号略>、証人佐草右造の証言、被告榎本本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を併せると、訴外明治乳製品は、牛乳、乳製品、パン、弁当等の卸売及び小売を主たる業務とし、正規の従業員約六〇名及びパート従業員約八〇名を擁する株式会社であって、被告榎本は、その取締役として主として牛乳、乳製品の取引等を担当していたものであるところ、昭和六二年秋、訴外明治乳製品の事業としてフランチャイズ・システムによるコンビニエンスストアの経営に進出することとしたが、原告ニコマートにおいては個人(非法人)をフランチャイジーとするのを原則としたため、結局、被告榎本が個人として原告ニコマートとの間で本件フランチャイズ契約を締結し、目黒店及び新高円寺店でコンビニエンスストアの経営を開始したものであること、訴外明治乳製品は、その後もコンビニエンスストアの経営を更に拡大することとして、昭和六三年九月、訴外株式会社ハーモニーとの間でフランチャイズ契約を締結して、東京都大田区北馬込でコンビニエンスストアであるファミリアンドフレンズ北馬込店の経営を開始したが、その後、訴外株式会社ハーモニーが東京都内での事業展開を縮小することにしたため、平成二年頃、新たに訴外新鮮組をフランチャイザーとしてフランチャイズ契約を締結して、同店をコンビニエンスストアである新鮮組北馬込店に改称してこれを経営するようになり、さらに、平成三年二月一三日、訴外サンショップヤマザキとの間でフランチャイズ契約を締結して、東京都中央区日本橋堀留町でサンエブリー日本橋堀留町店を、山梨県大月市でディリーストア大月店をそれぞれ経営するようになったこと、右サンエブリー日本橋堀留町店の三軒隣りには、原告ニコマートが直営するコンビニエンスストアであるニコマート堀留町店が存在していたこと、訴外明治乳製品が経営するようになったこれらのファミリアンドフレンズ北馬込店、新鮮組北馬込店、サンエブリー日本橋堀留町店及びディリーストア大月店におけるコンビニエンスストアの営業は、いずれもその経営形態、店舗形態、商品構成等において、原告ニコマートの行うコンビニエンスストア事業と類似しているものであること、、もっとも、訴外明治乳製品は、以上のほかに、訴外新鮮組との間でフランチャイズ契約を締結して、昭和六三年二月には東京都品川区西五反田で新鮮組TOC店の経営を開始し、また、平成三年六月には東京都港区浜松町で新鮮組浜松町店の経営を開始したが、これらの店舗における営業は、いずれも弁当、惣菜、飲料等を販売することを目的とするものであって、商品構成の点において原告ニコマートの行うコンビニエンスストア事業とは異なったものであったことの各事実を認めることができる。
三以上のような事実関係の下において、原告ニコマートのした本件フランチャイズ契約の解除の適否について検討すると、先ず、本件フランチャイズ契約においては、被告榎本が競業他者の経営に関与し又はこれらの者と業務提携若しくはフランチャイズ関係を結んだときは、原告ニコマートは、通知・催告をしないで、直ちに本件フランチャイズ契約を解除することができる旨の約定がなされたことは、前記のとおり、当事者間に争いがない。
そして、本件フランチャイズ契約がフランチャイジーに対して広く競業行為を禁止し、それへの違背を解除原因としている趣旨については、結局、フランチャイザーがフランチャイジーに提供する商品の陳列、仕入れ、管理等の方法、価格の設定を含めた販売方法、売れ筋情報等の経営に関わる情報は、フランチャイザーとフランチャイジーとの共同の事業としてのフランチャイズ・システムによるコンビニエンスストアの経営にとって基本的な重要性を有するものであって、本件フランチャイズ契約を構成する本質的な要素を構成し、これらの情報が競業他者に漏洩され、また、対価の支払いのないままに使用を許諾された特定の店舗以外の場所で利用された場合には、フランチャイズ・システムによるコンビニエンスストアの経営に著しい打撃を与えることになるため、右のような情報を営業秘密とし、このような営業秘密を管理し保全する手段として、フランチャイジーが競業他者と一定のかかわりを持つことを禁止するなどの競業禁止の方法を採ることにしたものと解されるところである。
この点について、被告らは、右の約定が独占禁止法一九条、二条九項、不公正な取引方法一一号にいう排他条件付取引及び同一三号にいう拘束条件付取引に該当し、公序良俗に反するものとして、無効であると主張するけれども、前記のような趣旨に照らすと、右の約定は、原告ニコマートとの間でフランチャイズ契約を締結してフランチャイジーとなった者若しくは信義則上それと同視すべき者が原告ニコマートと競業関係に立つような他のコンビニエンスストアのフランチャイズ事業を行う者(フランチャイザー)の経営に関与したり、その者と業務提携を行い、又はフランチャイズ契約を締結することを制限するに過ぎないものであり(原告らは、右約定にいわゆる「競業他者」には、コンビニエンスストアのフランチャイズ事業を営むフランチャイザーのみならず、フランチャイジーも含まれるものと主張するけれども、右約定の前記のような趣旨及び契約文言の文理に照らして、右のように解すべき根拠はない。)、経営情報等がひとつのシステムとしてフランチャイジーに提供されるフランチャイズ・システムによるコンビニエンスストアの経営の業態からしても、フランチャイジーが複数のフランチャイザーと取引関係をもたなければならない必要性は乏しいのであるから、これによって公正な競争が阻害されるおそれがあるとは考えられない。また、右約定は、フランチャイズ契約関係の継続に固有な営業秘密の保護という必要性に出たものであり、その制限の範囲も合理的な限度に止まっているものと解されるところであるから、右約定による事業活動の制限は、独占禁止法上も正当なものとして評価することができる。したがって、右約定は、独占禁止法の定める不公正な取引方法には該当しないものというべきであるし、その他、本件全証拠を検討しても、右約定が公序良俗に違反して無効であるとしなければならないような事情は、認められない。
以上のような観点に立って、これを本件について検討すると、訴外明治乳製品がファミリアンドフレンズ北馬込店、新鮮組北馬込店、サンエブリー日本橋堀留町店及びディリーストア大月店におけるコンビニエンスストアの各営業に関してフランチャイズ契約を締結した訴外株式会社ハーモニー、訴外新鮮組及び訴外サンショップヤマザキは、その各商圏やこれらの店舗におけるコンビニエンスストアの営業がいずれもその経営形態、店舗形態、商品構成等において原告ニコマートの行うコンビニエンスストア事業と類似しているものであることに照らして、いずれも原告ニコマートにとって競業他者に当たるものというべきことは明らかである。
そして、これらのフランチャイザーとフランチャイズ契約を締結したのは、訴外明治乳製品であるけれども、前記のとおり、訴外明治乳製品は、被告榎本の父が代表取締役、被告榎本を含む三人の兄弟がいずれも取締役を務める同族会社であるほか、<書証番号略>、証人佐草右造の証言、被告榎本本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告榎本は、目黒店及び新高円寺店についてはもとより、形式的には訴外明治乳製品がフランチャイジーとなっていた前記の各店舗におけるコンビニエンスストアの経営についても、自らフランチャイズ契約の締結や営業の統括に当たったり、個人の資格でフランチャイザーとの間で連帯保証契約を締結し又は食品営業の許可を受けるなどして、訴外明治乳製品の事業のうち少なくともコンビニエンスストアの経営に関しては自ら采配を振るって実質的にこれを支配していたことが認められるのであって、これらの事情に鑑み、また、前記競業禁止約定の趣旨は、営業秘密の管理なしい保全にあるのであって、当該営業自体の帰属主体としての法人格の異同は必ずしも重要ではないことなどを勘案すると、右約定の適用においては、訴外明治乳製品と被告榎本とは信義則上これを同視すべきものと解するのが相当である。
そうすると、被告榎本には本件フランチャイズ契約についての右約定所定の解除原因があったものというべきであり、請求原因4(本件フランチャイズ契約の解除等)の(一)の事実はいずれも当事者間に争いがないところであるから、本件フランチャイズ契約は原告ニコマートが平成四年四月六日にした意思表示により、また、本件転貸借契約は原告ニコマートが同月七日にした意思表示により、それぞれ解除されたものというべきである(なお、原告らは、被告榎本が原告ニコマートの企業機密等を訴外明治乳製品に漏らしたり使用させたりし、又は、訴外明治乳製品と共同して、目黒店及び新高円寺店の営業店舗以外の場所でニコマート・システムによる事業ないし営業活動と同一又は類似の営業活動を行ったものであると主張するけれども、本件全証拠によっても、被告榎本が、フランチャイズ契約に基づくフランチャイジーとして原告ニコマートから経営資料等を収受する立場にありながら、右のとおり、訴外明治乳製品の事業としての他の店舗におけるコンビニエンスストアの経営に関して実質的にこれを支配していたということ以上の事実を認めることはできず、これらの事実をもって直ちに被告榎本が原告ニコマートの企業機密等を訴外明治乳製品に漏らしたり使用させたりしたとか、訴外明治乳製品と共同して目黒店並びに新高円寺店の営業店舗以外の場所でニコマート・システムによる事業ないし営業活動と同一又は類似の営業活動を行ったものであると評価することはできない。)。
そして、請求原因4(本件フランチャイズ契約の解除等)の(二)の事実中、原告ニコマートが被告榎本に対して原告ら主張のような通知をしたことは当事者間に争いがなく、その余の事実は<書証番号略>及び証人佐草右造の証言によってこれを認めることができるから、結局、被告榎本は、賃借権を有し又はこれに基づいて各所有者に代位する原告ハウジグに対して、目黒店及び新高円寺店を明け渡すとともに、平成四年四月八日から目黒店の明渡済みに至るまで一か月当たり三五万五〇〇〇円の割合による賃料相当額の損害金を、右同日から新高円寺店の明渡済みに至るまで一か月当たり六四万二〇〇〇円の割合による賃料相当額の損害金を支払う義務がある。
四最後に、損害賠償の予定にかかる損害賠償金の支払いを求める原告ニコマートの被告らに対する請求について検討すると、本件フランチャイズ契約において原告ニコマートの主張するような損害賠償の予定に関する約定があることは、前記のとおり、当事者間に争いがないところである。これに従えば、被告らは、原告ニコマートに対して、目黒店及び新高円寺店を合わせて、ロイヤリティの一二〇か月分相当額の合計六七二〇万円の損害賠償金の連帯支払義務を負うべきことになる。
そして、フランチャイジーがフランチャイズ契約の定める条項に違背した場合において、フランチャイザーは、無形の財産である企業秘密の流出などによって、損害の発生自体は確実であっても、その具体的な額の特定及び立証が困難であることも少なくなく、このような場合に備えて一律の金額で損害賠償の予定を定めることにも一応の合理性があることは確かではある。被告らは、右の約定は、原告ニコマートが契約上の優越的な地位を濫用して被告らに合意させたものである上、実質的な損害がない場合にも過大な損害賠償義務を課すものであるなどとして、これを無効であると主張するけれども、右のような約定自体を一般的に無効としたり、本件においてこれを全部無効とすべき事情を認めるに足りる証拠はない。
しかしながら、、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、ロイヤリティの一二〇か月分相当額を損害賠償額とする右約定は、この種のコンビニエンスストアのフランチャイズ契約において通常みられるところに比して、著しく高率であること、原告ニコマートは、昭和六二年一〇月頃、被告榎本に対して、目黒店の店舗の賃借権や営業権も含めて売り渡す交渉をした際、営業権及び在庫商品を合わせて合計一四〇〇万円と評価して、これを売買代金額として予定していたのであって、六七二〇万円という損害賠償金の額は、著しく高額であることが認められる。そして、解除原因の内容及び態様、原告二コマートの被った実損の額、その他の具体的事情に関係なく、右約定を一律に適用することは著しく不公正であって、右約定は、少なくとも当該事案に応じた適性な賠償予定額を超える部分については、公序良俗に反するものとして無効になるものと解するのが相当である。
そして、右に認定したような事情や本件に現われた一切の事情を総合して考慮すると、本件事案における適正な賠償予定額は、本件フランチャイズ契約毎(各店舗毎)に三〇か月のロイヤリティ相当額(各八四〇万円)をもって相当とし、その余の部分は無効であると解するのが相当である。
したがって、被告らは、原告ニコマートに対して、合計一六八〇万円の損害賠償の連帯支払義務を負うことになる。
五以上によれば、原告ハウジングの被告榎本に対する請求は、いずれも理由があるから、これ(目黒店及び新高円寺店の各明渡請求については、各所有者に代位してする請求)を認容することとし、原告ニコマートの被告らに対する請求は、損害賠償金一六八〇万円及びこれに対する本件訴状が被告らに送達された日の翌日である平成四年一〇月三〇日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める限度において理由があるから、その限度においてこれを認容し、その余の請求は失当であるから、これを棄却することとして、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条及び九三条、仮執行の宣言については同法一九六条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官村上敬一 裁判官中山顕裕 裁判官門田友昌)
別紙物件目録<省略>
別紙図面一・二<省略>